【願い】
12月。
街の表情はクリスマス一色になった。
お店のディスプレイはもちろん、
どこからともなく街に響き渡るお決まりのクリスマスソング。
店だけでなく、ここ数年ではうちの近所の一般の家でも、
すごい気合いの入ったイルミネーションをしている家もよく見かける。
生憎、僕は生粋の日本人でクリスチャンではないので、
そこまでクリスマスを心待ちにはしていないが、
この時期のどこか微笑ましい街の雰囲気は好きだった。
12月の半ば。
京都駅の大きなクリスマスツリーの前に彼女と二人で立っている。
僕がちらりと横目で彼女を伺うと、何やら彼女は両手を胸の前で組み、
目を閉じている。
僕は少しびっくりして、おそるおそる彼女に話しかけた。
「なんだか、クリスマスツリーに願いごとをしているみたいだね?」
彼女は、そのままの体勢で答える。
「そうだよ。願いごとをしているの。」
僕は彼女が目を閉じたままなのをいいことに、彼女の長いまつ毛を見つめながら答える。
「でも七夕の笹じゃないんだから、クリスマスツリーは願いごとは叶えてくれないんじゃないかな??」
そう言うと彼女がぱちっと眼をあけたので、僕はびっくりして、少し彼女から離れた。
彼女は、僕の目を見て続ける。
「でも、七夕の笹より、クリスマスツリーの方がキラキラしているし、願いごとを叶えてくれそうな気がしない??」
そういった彼女の瞳には、クリスマスツリーの光が映り込んでいて、
僕が今まで見たどんなクリスマスツリーのよりキラキラしていた。
「ねぇ、ところでどうしてここにいるの?」
彼女の言葉で現実に引き戻される。
「あっ…、近くでセミナーがあったんだ。」
僕は今日、ある企業のオープンセミナーに参加していた。
先月イベントに行って以来、個別の企業セミナーへ行ったり、大学の就活ガイダンスに参加したり、
それなりにシューカツセイらしい行動をしている。(と思う…。)
その帰り道、この大階段にやってきた。
言うまでもなく、僕がここに来たのは今年もお目見えしたこのクリスマスツリーが目的ではない。
僕はクリスマスツリーがなくてもこの大階段が好きなのだ。
いや、正確には、この大階段からみた京都駅が好きなのだ。
この階段に座って、あちこちに遊び心が隠れている京都駅の構内を眺める。
そんな時間が好きなのだ。
そんな理由から、今日もお気に入りの場所の一つに少し寄っていこうと思い、足を向けた。
そこで、見覚えのある後ろ姿を見つけたのだ。
どうやら僕は彼女だけを正確に察知できる能力を身につけることに成功したらしい。
「そうなんだ。私も大阪に行っていた帰り。」
僕と同じくスーツ姿の彼女が言う。
こういう偶然を運命だと高らかにいうつもりはないが、こういう偶然が、僕のような男に勘違いを引き起こす。
「ねぇ、来年はどんな年になるかな?」
彼女はまたクリスマスツリーに視線を戻している。
「う~ん…、大変な年になるだろうね。」
僕はといえば、気の利いたことの一つも言えない自分のボキャブラリーの無さを呪っていた。
「いい年になるといいなぁ…。」
そう言った彼女の横顔がひどく儚げに見えた。
その瞬間、僕は彼女のマネをして、生まれて初めてクリスマスツリーに願いごとをした。
目を明けた瞬間、彼女が笑っていた。
「ねっ、クリスマスツリーに願いごとっていうのも、悪くないでしょ?」
「そうだね、悪くはないね。」
きっと、来年もいい年になるだろう。
少なくとも、僕にとっては、今年以上にいい年になるだろう。
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